EU離脱が起きた場合に、英国における芸術には大きな損害が起きるものと考えられています。
著名人が連名で、残留を支持すると表明した手紙にサインをしています。
ダンス界からは、ニューアドベンチャーズのマシュー・ボーン、ロイヤル・バレエ芸術監督のケヴィン・オヘア、振付家のアクラム・カーンとウェイン・マクレガー、ロイヤル・バレエでプリンシパルに昇進するフランチェスカ・ヘイワードらもサインしています。
http://blogs.spectator.co.uk/2016/06/royal-ballet-sadlers-wells-explain-brexit-will-hurt-dance/
インタビュー記事
まず、ダンスは、長期にわたるグループによる継続的な訓練を必要とする技術を持つ、常時雇用されている従業員に依存するものです。このことは、ダンスはオペラや演劇よりも構造的な経費が掛かる芸術にしています。
また、ダンスは国際的な舞踊言語によって語られる芸術であり、様々な国々の伝統が合わさったものであります。コンテンポラリーダンスは、様々なダンスに起源をもつものであり、ダンスカンパニーは世界中から人材を集めています。英国のダンスの歴史は、世界の文化の歴史でもあります。
ロイヤル・バレエ、コンテンポラリーダンスのランベール・ダンス、そしてアクラム・カーンというバレエ、コンテンポラリーダンスの巨匠たちは、このEU離脱がマネジメント、アーティストたち、そして創造的な仕事にどのような問題を起こすかということについて語りました。
彼らは、経済と入国問題について懸念しました。ダンスカンパニーは、緊縮財政の影響を受けており、英国だけでなく、EUからのプロダクションファンドや基金に依存しています。よく知られた、売れることが確実なヒット作をリサイクルするだけにとどまらず、前進していくためには、納税者が税金で支えていくことが受け入れられなければなりません。
ロイヤル・バレエの芸術監督、ケヴィン・オヘアは以下のように語りました。「もしEU離脱が景気の悪化を招くことになれば、間違いなく、芸術文化に寄せられる民間及び公共の投資に悪影響があることでしょう。ロイヤル・バレエの意欲的なプランも、難しい決断を迫られることになるかもしれません」
ダンサーの雇用と入国については、さらに複雑な問題があります。モダンダンスの振付家であるアクラム・カーンは、「入国とビザの規制が見直されることになればダンサーの移動も制限され、最も優れた国際的なパフォーマーを呼ぶことが難しくなるでしょう」と語りました。彼のカンパニーの、ヨーロッパ出身のカンパニーメンバーのビザについて懸念しているとのことです。
オヘアはこのようにも言っています。「英国の芸術機関は、EUのアーティストが自由に入国できることから恩恵を受けており、それにより私たちは最高の才能を引き寄せることができます。グローバルな市場の中で競争力を保つためにはあらゆるツールを持たなければならないので、このことは必須なのです。もし英国がEUを離脱すれば、我が国の芸術の機関はどのように世界的な才能を引き付け、維持することができましょうか。また、英国人がほかのEU諸国で働く機会を得られなくなってしまうのではないでしょうか」
ランベール・ダンスの最高責任者であるナディア・スターンは、ビザの問題について語ってくれました。ランベールの22人のダンサーのうち、半分は英国人、4分の一はヨーロッパ市民、そして残りはそれ以外の国の出身です。今まではEU出身のダンサーは、ランベール・ダンスに何の問題もなく入団できましたが、現在の、非EU出身者に求められる要件に従わないとならなくなります。
この労働ビザの条件は厳しいものです。EU以外からの弁護士、エンジニア、秘書、ダンサーは”Tier 2”というビザのカテゴリ(熟練労働者)に該当しますが、20,700人という総数の制限があります。このカテゴリは、年収£155,300以下の人々に適用されます。(それ以上の収入がある場合には、自由に入国できます)この許可証は、ポイント制に基づいて可否が決まり、前年の年収、英語能力、スキル、年齢(若い人の方がポイントが高い)によって算出されたポイントで労働ビザが下りるかどうかが判定されます。ダンスは、入国管理局によって「英国では不足している能力」と判断されているため、英国のダンスカンパニーによって職を得たダンサーは、収入が低くても、このビザが下りる可能性が高かったのでした。
スターンによれば、ランベールにとって、EU以外の国からの労働ビザをさらに5人分得ることはそこまで困難なことではありません。問題は、EUから離脱した後、政府は総数で3万~4万人ものEU出身の労働者を、外国人ビザの要件にどうやって切り替えて働いてもらうようにするかということです。現状に対しての無知が蔓延する中で、移民問題は大きな社会問題となっている中で、それが果たして可能なことなのかどうか、それが問題です。
「ランベールのようなカンパニーは、世界最高レベルのカンパニーであり続けるためには、世界中からのダンサーを引き付けて採用しなければならないということを、入国管理局、ひいては政府が認識してくれているから維持できているのです。今現在はそれは難しいことではありません。現状ではEEA(ヨーロッパ経済圏、EUより少し広い範囲)出身のダンサーや振付家、デザイナーは自由に入国できます。サドラーズ・ウェルズ劇場では、ドイツ出身のカンパニーは、国内のカンパニーと同じ扱いで公演を行うことができました。私が懸念するのは、EEA出身以外の人達に与えられる労働ビザの総数が増えない限り、今まで通りの採用活動はできなくなってしまうということです」
「もう一つの懸念は、移民問題があまりにも議論を呼ぶ問題となっているため、政府は、ヨーロッパ以外からの人々への労働ビザの発行件数を減らしてしまうことです。それは直接的に私たちの採用活動、ひいては私たちの世界レベルのカンパニーという評判にも大きな打撃を与えることでしょう」
アクラム・カーンにとって英国のEU離脱は、カンパニーのすべての側面に影響を与えてしまうとのことです。プロダクション製作にとって欠かすことのできない、ヨーロッパのクリエイティブなアーティストとの自由な行き来を失うこと、またカンパニーが支払うことができないかもしれない新しいコストが発生することも懸念されます。アクラム・カーンはサドラーズ・ウェルズ劇場の常任アーティストです。サドラーズ・ウェルズ劇場は、ヨーロッパにおける劇場ネットワークの一部であり、このネットワークにおいて共同制作を行うことで費用を分担し、ツアーの日程を調整しています。
カーンのオフィスによれば、ヨーロッパ内での共同制作による資金集めは、「新制作のためのビジネスモデルにとって必須である」とのことです。また、彼らは、ビザや税金、医療保険のコストが増加する場合、ヨーロッパ内におけるツアーの頻度が減ることも懸念しています。
また、ロイヤル・バレエ、アクラム・カーン・カンパニー、ランベールのような国際的に活動するカンパニーにとって、「英国の文化政策は、EU離脱に従って、ナショナリズム的なものとなる可能性があり、制限され長期的な視野に立てなくなる懸念があります」とカーンは警告しています。
ブラウン氏は、3者に、「外国人へのハードルを上げることによって、英国人枠を広げたほうがいいのでは?」と質問したところ、3者とも「団員は、その人の持つ才能によってのみ採用されるのであり、もし適切な人材が見つからなければ、無理して定員を埋めようとは思わない」と回答しました。
「ビザ申請に関する業務は、雇用への障壁となる可能性がある」とオヘアは言い、スターンも、「ランベールは、良いダンサーが見つけられなくなれば、カンパニーの規模を小さくせざるを得ないか、もしくは人数を維持するために今までは雇わなかったであろうレベルのダンサーを採用し、それによってカンパニーの質を落とさざるを得なくなります」と言いました。
英国のダンスは、常にヨーロッパの中に包摂されていました。ロイヤル・バレエの振付家であったケネス・マクミラン、ジョン・クランコ、そしてキャシー・マーストンは英国とドイツの両国で仕事をするなど、このルートでのやり取りは多いものでした。ロイヤルの近年の歴史で活躍してきた多くのアーティストはヨーロッパ出身でした。タマラ・ロホ、アリーナ・コジョカル、ヨハン・コボー、シルヴィ・ギエムなど。スペイン人であるタマラ・ロホは、現在ENB(イングリッシュ・ナショナル・バレエ)の芸術監督です。ロンドンで活躍したスターたちは、オランダ、エストニア、ギリシャ、スロヴェニア、ルーマニアといった国々で芸術監督として活躍しています。
もし、汎ヨーロッパ的な流れが断絶したら、英国のダンスには何が起きてしまうのでしょうか。スターンは、英国のEU離脱そのものは、ダンスを破壊することはない、多数派を得たEU離脱後の政府によって決められた政策が結果を決めることになるでしょうと語っています。
「国民が決めたことに対して、政治家がどのように動くかどうかによって結果はゆだねられることでしょう。もし、私たちが世界レベルのカンパニーであるという地位を維持できない危険性が出てきた場合には、私達のグローバルな地位は妥協の産物となることでしょう。国民が決めたこと、私たちがどのような国にしたいかということについて、冷静に考えたいと思います。自分たちが世界レベルのカンパニーであり続けたいかどうかということを」